公開日:2017年3月7日

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いい炎上ってなんだろう?
人生を迷走した矢口真里さんと焚き火をしながら考えた。

炎上は一般の人にとって対岸の火事だろうか。
炎上に巻き込まれることを恐れて萎縮している経営者を見たり、「SNSの投稿を躊躇することがある」と聞いたりすることもある。逆に、まとめサイトやワイドショーを見て、無意識に炎上に加担していることもあるかもしれない。だれもが炎上とは無関係ではいられないこの時代、ぼくらはどう生きていけばいいのだろうか。離婚報道で最大限に炎上し、人生のどん底を見た矢口真里さんと、焚き火をしながら考えてみた。

矢口真里
モーニング娘。OG。2013年10月以降、離婚騒動の影響で活動を休止したが、2014年10月に再開。仕事の幅を広げ、タレントとして積極的に活動している。

滝口勇也(インタビュアー)
クリエイティブファシリテーター。博報堂で事業戦略サポートとコミュニケーション企画の業務を担当。企業の経営者と相対する中で今回の企画の元となる課題意識が芽生えた。

滝口炎上したときはどういう気分でしたか?

矢口「自分はこの世でひとりぼっちだ」という気分でしたね。お母さんはそばにいてくれましたけど、それ以外はだれからも距離をとって、ただただ「私のことは忘れてください」って願ってました。殻に閉じこもっていたので、自分を支えようとしてくれていた人のアドバイスも耳に入らず、ずっと家に引きこもって。でも、そうしてるとついついネットが気になっちゃう。で、自分に対してのネガティブなコメントばかりに目が行って。あのときの精神状態はホントにヤバかったです。

滝口やっぱりかなり追いつめられてたんですね。実はぼく、2年前に仕事でかなり追いつめられたことがあったんです。人を宙に吊るイベントの仕事だったんですが、安全に全力を注ぐ一方で、万が一のことにも備えて準備していたらどんどん精神的に参ってきて、プレッシャーで8kgも痩せて夜も眠れず、家族に抱きついて眠る日々で。そのとき心の中でずっと自分に言い聞かせていたのが、「今の矢口よりは辛くない」ってことなんです。この東京の空の下のどこかにいるあの矢口真里よりはぼくの方がマシだ、って。ちょうど休業されて日々報道されているときだったんですけど。

矢口えっ、そんなこと思ってたんですか!? 芸能人冥利につきますね。あ、でも、追いつめられてるときってそういうのが大事かもしれない。ついつい、自分が世界でいちばん不幸って思いがちですけど、でもそんなことないですよね。騒動の後、海外に行ったんですけど、だれも私のことを知らないし興味もない。そりゃそうですよね。日本でもホントは同じだと思います。日本中の人が私を嫌ってる、って気がしてましたけど、でも大部分の人にとってはそんなに興味が続くことじゃない。あ、そうか、結局、私が悩んでたのって日本の中の、東京の中の、港区の中でのことだったんだって、気づいたんです。。

滝口外に目を向けることが大事だ、ってことですよね。当たり前のことですけど、なかなかそれができない。

矢口そのためにも、やっぱり自分の周りの人の声に耳を傾ければよかった、って今は思います。応援してくれる人もいたのにすべてに耳を塞いでいたので。

滝口応援してくれる人もけっこういたんですね。炎上って賛成と反対があって初めて成り立つんじゃないかと思うんです。

矢口あぁ、たしかにそうですね。反対意見だけだったらそんなに盛り上がらないですよね。でも、渦中にいると賛成というか、応援してくれる人の意見って見えなくなるんですよね。不思議なんですけど。

滝口炎上してよかったな、と思うことはありますか?

矢口それはなんと言っても強くなれたことだと思います。周りの人にいろいろ言われても、まず自分の感覚を信じられるようになりました。だから、自分を出せるようになったんです。

滝口ややもすると、それは芸能人だけど受け手のことを気にしない、という風にも受け取れますが。

矢口う~ん、私、ずっと「ふつうの人」キャラを演じようとしてきたところがあるんです。モー娘。のときもそうでした。時事ネタに対してのコメントを求められて、「私、気の利いたこと言えないですよ」って言ったら「それでいいんです、矢口さんにはふつうのことを言ってもらいたいんです」って言われるような、そんな存在だったんです。それは見ている人のことを気にしているように見えますが、実際は本来の自分と違う役割を担っているだけ。しかもそんなに見ている人を楽しませてるわけでもない。
だけど、今は自分をさらけ出せる。本当の私には、華やかな生活に憧れている部分もある。そういう自分を素直に出せるようになって、それで見ている人に楽しんでもらえたらいいなって。芸人さんも今は強めに接してくれるんです。騒動のことをネタにしたり、下ネタをふってきたり。それが対等にあつかってもらってるようで、うれしいんです。
嫌われないように、さらに言えば、炎上しないように気をつけて無難なことを言うんじゃなくて、自分をさらけ出してその上で受け手の人がどう思うか。そういうことなんだと思います。自分のキャラと本来の自分にギャップがあると無理が生じる。そういうのって見ている人にもわかっちゃいますし。自分を出し切れるようになって、楽になったんです。

滝口自分を出し切るために大事なことってなんだと思いますか?

矢口人のことを悪く言わない、ってことと、自分を低く下げて言う、っていうことの2つだと思います。自虐的というか。いい人になりましょう、っていう話ではなく、あくまで自分を低い位置に置いておくため。

滝口人のことを悪く言うとき、それを言う自分は、どこか知らず知らずのうちに上から目線になりがちですよね。

矢口そう、自分を高いところに置いて話してしまうことが多くなる、自分を高く見せるとその分自分をさらけ出すのが難しくなるんだと思います。自分を出すのに大事なのは相手の中にある自分への期待値を下げておくこと。そうすれば、自分を出しても大丈夫だな、って。でも、やってみて気づいたんですが、自分をさらけ出した方が興味を持ってもらえたり、おもしろがってもらえたりするんですよね。不思議です。

滝口なるほど。矢口さんは芸能人という特殊な仕事ですが、今や一般の人や企業も炎上とは無縁じゃないと思うんです。そのため、みんなどこか萎縮している気がする。本来持っていた想いを大事にするよりも、叩かれないように、ということを大事にしている。どう思いますか?

矢口みんなが萎縮しているのはなんとなく感じます。もったいないですよね。本来、だれかのことを楽しませたいとか喜ばせたいとか便利だと思ってもらいたいとか、広く言うと幸せになってもらいたい、っていう想いから仕事はスタートしているのに、その想いや熱を横に置いておいて、炎上しないように怖がっていると、そもそもだれかを幸せにする力もなくなっちゃうんじゃないかな、って。だから、やっぱり自分はだれかを幸せにしたいんだ、って気持ちを大事にすることが大切なのかな、って思います。
あとは自分をおもしろがってくれる人に目を向けて、その人たちのためになにをすればいいか、って視点で考えるのが重要なのかな、と。だれかを傷つけるのはダメだし、もちろんそんなことになったらすぐに謝らなくちゃダメだとは思うけど、でもすべての人の言うことは満たせないから、せめて自分がやることを喜んでくれる人に目を向けた方がいいですよね。それ以外の人のことはスルーするしかないと思います。私は自分がスルーすればそれでいいけれど、会社の場合は全員がスルーしないとダメですよね。みんなでスルーしないと結局言うことを聞かなければいけなくなる。そのためにはトップの人の動きが大事なんじゃないですかね。トップの人が方向を決めないと現場の人は何も発信できなくなっちゃう。
でも、テレビ局も含めて、今の組織のトップの人たちって、ネットとかでいろいろ言われることに慣れてないんじゃないですかね。だから言われるとビックリして驚いてしまう。って、まぁ、自分も最初はいろいろ言われることに慣れてなかったからすごくビックリしちゃったんですが…。でも、だれかを傷つけてないなら信じることを貫いた方が応援してくれる人も増えると思うんですよね。

滝口昔と今のテレビ局を比べると、実は昔のテレビ局の方がクレームは圧倒的に多かったらしいですね。でも、それが世の中からは見えない。だからスルーできた、ということかもしれませんね。企業のトップの考え方も変わってきたんでしょうけれど。考えてみれば、芸能人って自分が会社の社長みたいなもんですね。だからこそ、トップが大事ってことかもしれないですね。

矢口今年、いろんな炎上があったじゃないですか。他の人のことを言うのはやめようって思ってたんですけど、叩かれ過ぎなんじゃないかって思うこともあって。もちろん、やったことのいい悪いはあるけれど、それとは別になんだか仲間意識が勝手に出てきたんです。なにかできることないかな、って。だれかの相談にのりたいんですよね。私でよければ、って。

滝口あ、じゃあ、この『広告』でお悩み相談の連載やりましょうよ。毎号だれかの悩みを聞くカタチで。

矢口ホントですか、ぜひ! ただ1対1だと私のアドバイスのおしつけになっちゃうから座談会の方がいいかもしれないですね。私がアドバイスしたとして、それを実行できる人もいればできない人もいる。でも、他の人の意見を聞けば、できない人もきっと安心するから。楽しみにしてます!

いい炎上のポイント

  • 自分の熱意を大事にする
  • カッコつけずに自分をさらけ出して自分を低いところに置く
  • 信じることのためなら炎上前後で態度を変えない
  • だれかを傷つけるのはダメ。汚れるのは自分だけ

写真:高橋宗正
監修:藤原祥弘(アウトドアライター・焚き火の達人)、鈴木瞬(社会医学専門医)
取材協力:WILDMAGIC THE THIRD PARK TOYOSU